カナ⇄シュンスケ? – 渋谷≠世紀末 vo.2

 

渋谷に住み始めて四ヶ月が経った。

長い長い夏休みを目前にしても、わたしの行動範囲は大学とアパートとコンビニのみ。

 

 

久しぶりに電話をしてきた幼馴染のエッちゃんにそう答えたら、そんな横移動だけを繰り返しているのは、お前と蟹くらいだと言われた。

 

「せっかく渋谷にいるんだからいろいろ行って見たらいいのに」

「いろいろって?」

 

わたしの問いにエッちゃんは、即座に言う。

 

「ハチ公とか」

「待ち合わせる人がいない」

「109は?」

「ケンシロウの世紀末的世界が広がっていそうだからやだ」

「キャットストリートは?」

「猫アレルギーだから絶対無理」

 

キャットストリートに猫はいねーよ、と田舎に住んでいるはずの彼女の方が、わたしよりも渋谷に詳しかった。

 

「エッちゃんが遊びに来てよ」

 

半ば冗談、半ば本気で言ってみたら、

 

「え、無理。金欠」

 

一蹴された。

昔からエッちゃんははっきりしている。

 

「それじゃ、休憩時間終わるから、また」

 

返事を待たずに電話は切れた。最近彼女はバイトをしているらしい。

 

彼女を真似て、わたしもバイトを始めてみようか、なんて思ったけれど、こんなパリピの街にわたしのような人間の務まる仕事があるとは思えない。

 

試しにティッシュ配りをしている自分を想像してみたけれど、ひとりに無視されるごとに地の果てまで落ち込むのが目に見えた。

 

 

手持ち無沙汰になってベッドに転がる。

 

ぼんやりと天井を眺めていると、不意に携帯が鳴った。来た、と思い、わたしは急いで画面を開く。

エッちゃんには黙っていたけれど、一つだけわたしの生活に変わったことがあった。

 

『シュンスケ、お仕事お疲れさま』

画面に映る加奈さんからのメッセージ。

 

一度で終わるはずだったわたしたちのやり取りは、あれからずっと続いていた。

いや、正確に言えば、加奈さんとわたしではなくて、加奈さんとシュンスケのやり取り。

 

本当は早い段階でやり取りを切り上げるべきだった。

けれど、一度返事を書いてしまった手前、手紙が届くと無視ができなかった。

 

そしていつの間にか、

『手紙じゃ手間だから携帯のやり取りにしよ』

『おー』

『じゃあわたしのID送るねー』

なんて流れを経て、やり取りはメッセージアプリへと移行していた。

 

「あんたの名前、なんでシュンスケってなってるの」

 

久しぶりに来た母からの電話で訊かれたけれど、わたしはなんとなくと言ってシラを切り通した。

 

まさか、寂しさのあまり男のフリをして女の人とやり取りをしているなんて言えるわけがない。

そんな娘、わたしが親だったらたぶん泣く。

 

『加奈も仕事お疲れ』

『ありがとう、午後も頑張るー』

『ま、無理せず』

 

 

騙している罪悪感がないわけじゃない。

けれど持ってきた漫画をあらかた読み尽くしてしまったわたしにとって、このやり取りは少しばかりの楽しみだった。

 

ちなみにわたしの中のシュンスケ像は、渋谷の玄人。
悠々自適に渋谷の街を闊歩して、ふらりとそこらへんの店に顔を出と、シュンさんじゃん! 久しぶり! とみんなが声をかけてくる。

 

 

わたしのように足のつま先ばかり見ながら街を歩いたりはしないし、スクランブル交差点から押し寄せてくる人の群れにもビビったりしない。
いつも飄々としていてクール。だけどたまに見せる笑顔が可愛い。そんな感じ。

 

『今日のお弁当にはハンバーグを二つも入れたんだ〜』

『いいね、うまそう』

『自信作! 自分でいうのもなんだけど、めっちゃ美味しい』

 

 

やり取りを始めてから今までにわたしが得た情報は、加奈さんが千葉に住む(これは住所から知った)OLで、印刷会社で働いていること。犬と料理が好きなこと。休みの日はカフェ巡りをしていること。

 

加奈さんはやり取りの中で二人の過去を掘り返す話はしなかった。だからわたしはただ日々の愚痴を聞いたり雑談をしたりするだけ。話を合わせるのは容易だった。

 

『ねぇ、シュンスケ、暇なら今週の土曜に会わない?』

 

けれど、最近気がかりなのは加奈さんの『会いたい』という言葉が増えてきたことだった。

 

『あ、午後の仕事始まる。じゃ、またね、加奈』

 

 

わたしはそれを華麗にスルーして、メッセージを終えた。

 

(vo.3へ続く)

北原鈴子のプロフィール

大学生の頃、「なんとなく書けそうな気がしなくもないな」と思い執筆を始める。

基本的にぼんやりしており宇宙と交信していると言われながら、休日はスタバで小説を書いたり書くふりをしたりしている。

KADOKAWA電撃大賞にて賞を逃すも、編集者により拾い上げ経験あり。

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