舞台の上で演じているあなたへ

 

初めてラブレターを書きます。

 

もしかして「この筆跡には見覚えがある」と

感じるかもしれません。

 

わたしは、これまでもあなたの舞台や

イベントのたびに、何通か、

手紙を出していました。

 

もっとも、名前は書いていないし、

握手会やお渡し会といった

接触系イベントには参加してませんから、

万一、筆跡に見覚えがあったとしても、

それ以上の感慨はないでしょう。

 

わたしがあなたを知ったのは、

だいたい1年前のことでした。

友達に誘われて行った、

「卓球のプリンス様」のミュージカルです。

 

子供の頃原作のファンだったわたしは、

御所ヶ原中学卓球部部長……

藤野匠くんのことが大好きでした。

そう、あなたが演じていた役です。

 

それまで2.5次元舞台に全く行ったことがなく、

それどころか当時放映していた

「卓プリ」のアニメですら、

観ないようにしていました。

 

自分の、匠くんに対する解釈が

否定されてしまうんじゃないかと思って、

あえて目に入れないようにしていたんです。

 

ものすごい熱狂的なファンだったかというと、

そういうわけではなくて、

わたしは本当に、頑固で内向的な人間なんです。

 

だから、卓プリの舞台化を知ったのは、

チケットが余ってるから一緒に行かない?と、

わたしが卓プリを好きだなんて全然知らない

職場の同僚に声をかけられてからでした。

 

そこからは、あっという間でした。

 

あなたは圧倒的な健やかさ、美しさ、力強さで、

わたしの中で錆び付いていた匠くん像を、

破壊することなく

アップデートしてみせました。

 

心の中にしまって、

思い出すこともなくなっていた、

わたしのときめきが、

あなたの力で、もっと華やかで

もっとあたたかいものに生まれ変わりました。

 

匠くんや卓プリがもっと多くの、

もっと若い世代に愛されているさまを見て、

そして何より単純に、

あなたの身体を通して匠くんが

この世に存在しているのを感じて、

本当に涙が出たんです。

自分の心の中に閉じ込めていた

わたしの匠くんが、

成仏したような気すらしました。

 

それは、他の誰でもなくて、

そしてわたしが好きだった

ほかのどのキャラでもなくて、

あなたが匠くんを演じているからこそ

起きた奇跡でした。

 

今までの手紙は

「いつも素敵です」

「今回の公演の新曲よかったです」

なんて、さらりとしたメッセージを

2〜3行という感じで済ませていたので、

あなたに魅入られたきっかけは

初めて書きました。

こんなに丁寧に書いてしまって、

自分でも恥ずかしいです。

 

そうやってもう一度匠くんに出会って、

1年が経ちました。

何度かの再演を経て、あなたは先日、

卓プリを卒業することになりました。

本当にお疲れ様でした。

 

世代交代ということで、

今後卓プリに参加するキャストも明かされ、

次の匠くんも、発表されました。

涼しげな眼差しがあなたと同じ系統の、

でももう少し若くて、

あなたよりも色素が薄い感じの人です。

匠くんと、身長体重が同じなんだって、

ファンが盛り上がってました。

 

新キャスト公演のスケジュールを眺めながら、

わたしは気づいてしまいました。

新しい匠くんなんて、

全然観たくないということに。

 

あなたがしっかりと演じ、

解釈した功績があるから、

きっと次の匠くんだって、

すごく素敵な匠くんになるはずなんです。

チケットをとれば、わたしは普通に

それを楽しんでしまうのでしょう。

 

でもわたしは、いつのまにか、

あなたが演じた匠くんを追いかけてるつもりで、

あなたのことが

好きになってしまっていました。

 

これはもう間違いなく恋です。

そして絶望ですね。

 

だって、匠くんはフィクションのなかの

中学生で、ずっと部活に打ち込んでいて、

わたしたちに夢を見させ続けてくれるけれど、

あなたは生身の男の人で、

どんどん新しい舞台に挑戦して、

いろいろな人と接して、

自分自身の関係を築いて、

きっと恋愛もしていくし、

しているんでしょうから。

 

俳優自身が好きだからといって、

あくまで「ファン」として、

楽しみ続けることができる人もいるでしょう。

だからあんなに平気で、握手したり、

直接会話したり、できるんだと思います。

 

でもあなた自身が好きなんだと気付いてから、

胸の奥のきゅっとした気持ちに気づいてから、

わたしはどうにもならなくなってしまって、

天国のような地獄のような、

ものすごく激しい車酔いのような、

なにがなんだかわからない感情に

つつまれています。

 

あなたはわたしのことなんて何にも知らなくて、

こんなに一方的な関係で、

一体これからどうしたらいいんでしょうか。

 

早くこの恋を成仏させたくて、

どうしようもない手紙を書いてしまいました。

 

次の卓プリのチケットはとらないでしょう。

でも、だからといって、あなたが新しく出る

お芝居のチケットをとるべきなのか、

ものすごく悩んでいます。

 

気づいてしまった以上、

その他大勢になりたくないから。

 

いっそ早く、どこかの誰かとの

熱愛写真でも流出してくれたほうが、

心やすらかになるんじゃないかというくらい、

混乱しています。ほんとうに。

 

こんな気持ちを伝えて、

わたしのことを知ってもらったって、

あなたがわたしを好きになる確率は

ほとんどないでしょう。

 

だからこの手紙を、出すつもりはありません。

だいたい、他の大勢になりたくないといいつつ、

この手紙をあなたに読んでもらうには、

他の大勢と同じように公演に行って、

同じボックスに入れないといけないんです。

今のわたしには、それすら絶望に感じます。

 

この絶望から一瞬でも目をそむけたくて、

きっとわたしはまたあなたの舞台に

行ってしまうのでしょう。

 

舞台の上のあなたに熱中している瞬間だけ、

生身のあなたのことを忘れられるんです。

 

だから、これはやっぱりファンレターなんです。

 

いつまでもずっと、応援しています。

 

【書き手】 零

妄想ラブレターとは

中学の頃好きだったあの子、
高校のとき一緒に帰っていた彼、
大学で一瞬いいなと思ったあの人……。

恋の片鱗はどんなときにもあったけれど、
「好き」という言葉を
伝えることができた相手は、
思ったより少ないのではないのでは?

それぞれが胸のなかに秘めた「好き」を
思い出すきっかけにしてほしくて、
『妄想ラブレター』の連載を始めました。

寄せられるラブレターは、すべて妄想。
書き手の実体験をもとにしたものや、
どこかで聞いたような話も
あるかもしれませんが、
どこまでもフィクションです。

でもその中につづられた
「好き」に触れるうち、
あなたの中の甘酸っぱい思い出が目覚める…
なんてこともあるかも?

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