5年前に別れたあなたへ

 

まさか、あんなところで

鉢合わせるなんて思ってなくて。

 

正直最初は、顔を見なかったふりして、

そそくさと脇を通り過ぎたんです。

もしかしたら、あなたも私に気づいていたけど、

気づかなかったふりをしていたのかも、

とも思います。

 

でも、そうしたら、同じ新幹線の、

隣同士の座席だったわけでしょ。

せっかく羽をのばすために

年末年始にとった旅行なのに、

なんなんだこれは、とため息をつきました。

 

5年ぶりに会ったあなたは……

全然変わってなかった。

 

わたしとあなたは2歳違いだから、

いま33歳だよね?

同年代の男友達や、

憧れていたサークルの先輩なんかと

久しぶりに会ったときは

「そんな疲れてて大丈夫?」って、

逆の意味で驚かされることが多いのに、

あなたはそうじゃなかった。

 

別に童顔ってわけじゃないし、

不自然に顔にツヤがあるって

わけじゃないけれど、

目が、少しも生活に疲れていなくて。

だからこそ、5年ぶりでも

パッとわかったんだけれど、

わたしはそのあなたの若さや変わらなさにこそ、

絶望させられています。

 

あなたと知り合ったのは、

サークルの先輩男子の結婚式二次会でした。

その先輩は、サークル内のいろんな女子に

手を出していたことで有名で、

サークル内で二次会に呼ばれていた女子は

私くらいだった。

 

男子が男子で群れて

盛り上がっているところに入りづらくて、

壁際でちびちびとスークリングワインを

飲んでいるわたしに声をかけてくれたのが、

あなたでした。

 

「お腹いっぱいになっちゃったんだけど、

夜風にでも当たらない?」

 

ナンパというよりも、

本当に外に出る口実がほしいんだろうなという

嘘てらいのなさにあふれた声音と

のんきそうな瞳に、

わたしは一瞬で心つかまれて、

ふたりで暗い庭園に

飛び出したのを覚えてます。

 

あなたは普通にサラリーマンだったし、

きちんと家事と日常をこなしていて、

友人の結婚式二次会にも

しっかり出席するような人だったけれど、

いつどこにいても、

わたし以上に所在なさげにしていて、

それどころか、わたしと一緒に

ごはんを食べたり、映画を観たり、

旅行をしたりしているときにすら、

ここではないどこかを見ているようだった。

 

だから、いつか別れを告げられる日が来る

ということは全然予想していたんだけど……

 

いや〜〜〜同棲して両親に挨拶して

婚約して式場まで予約しておいて

「やっぱなんか違ったかも」はなくない?

 

今更腹わたが煮えくり返ってきた。

 

違う、なんてことは

最初から全然わかってたじゃん。

わたしはわたしと違うあなたが好きで、

「これは違うかも」と思う瞬間を

たくさん抱えて、

でもそれでも一緒にやっていこうと

思っていたけど、

あなたは結局、自分のことしか見えてなくて、

自分ひとりでしか生きてなくて、

でもたまに他人といたくなって、

でも自分と他人の違いには、

全然寛容になれない人だった。

 

別れた直後は、あっけにとられたような

気持ちが強くて、

そこからじわじわと悲しい気分が続いて、

両親からは鬱なんじゃないかと

心配されるくらいでした。

 

それからだいぶあなたのことを

忘れていたものの、

万一誰かの結婚式なんかであなたに会ったら

どうなっちゃうんだろうわたし、なんて

くだらない妄想をしていたこともありました。

 

でも、あなたの目が変わっていないのを見て、

すっかり安心しました。

あの後、わたし以外の誰かや何かと

酸いも甘いも経験してきたあなただったら、

やばかったなと思うけれど。

 

わたしの近況、

べつに知りたくないとは思うけれど、

ぼんやり書いておくと、

仕事も趣味もたのしいし、

いろんな人に囲まれて、

なかなか充実して暮らしています。

 

あなたと別れたばかりのころは、

「あの選択をああしていなければ、

結婚できていたかな」とか

「どう選択してもだめだったなら、

いっそ出会う前に戻れたらいいのに」とか、

とにかく過去のことばかり考えていました。

 

それが今は、自然と明日のことを考えられるし、

気づくとあっという間に

毎日が終わっています。

べつに彼氏はいないけど、すごくしあわせです。

 

変わらないままでいてくれたから、わたしは

あなたにもう一度恋をせずにすみました。

 

一生ぶんのさよならを込めて、

このメールを送ったら、

あなたのアドレスを削除します。

 

永遠に、じゃあね。

 

【書き手】
常盤川ゆめ

妄想ラブレターとは

中学の頃好きだったあの子、
高校のとき一緒に帰っていた彼、
大学で一瞬いいなと思ったあの人……。

恋の片鱗はどんなときにもあったけれど、
「好き」という言葉を
伝えることができた相手は、
思ったより少ないのではないのでは?

それぞれが胸のなかに秘めた「好き」を
思い出すきっかけにしてほしくて、
『妄想ラブレター』の連載を始めました。

寄せられるラブレターは、すべて妄想。
書き手の実体験をもとにしたものや、
どこかで聞いたような話も
あるかもしれませんが、
どこまでもフィクションです。

でもその中につづられた
「好き」に触れるうち、
あなたの中の甘酸っぱい思い出が目覚める…
なんてこともあるかも?

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