(匿名)より、インターネットをやめたあなたへ

 

ユキチさんへ

 

どうしてサイトやめちゃったんですか。

 

旅番組で夜の砂漠と海の映像を見たら、

ふと、ユキチさん元気かなと思って、

なんか、嫌な予感がして、

濃紺の背景に8ptの白字が浮かぶ

ここを思い出して、

ひさびさに見に来たら

こんなことになっていて驚きました。

 

拍手のボタンだけが浮かんでいて、

縋り付くような思いきもちで、わたし、いま

ここに書き込んでいます。

なんだか遺書を書くようなきもちです。

 

ちゃんと読んでくれますか?

 

おーい。

 

あーあ、

 

スクロールすると、

大きなエロ広告が表示されるように

なっちゃったんですね。

 

陵辱される少女の股に

発光しているような効果がついていて

ユキチさんだったらさんざんに言うでしょうね、

こういうの。

 

なんか、死んだインターネットの

墓標みたいですよね、

でかいエロ広告って。

 

死んじゃったんですか?

 

2008年のわたしたちには、

みんなひとりにひとつサイトを持っていて、

キリ番があって100質があって

ランキングサイトがあって、

ブックマークがあって、

 

わたしは森という管理人のやっていた

「memento」のファンで、そのブックマークから

ユキチさんのページを見つけたんですよ。

なつかしくないですか?

mementoて。森て。

いまなら思うんですけどね。

でもあの時は必死だったから。

 

ひりついていたり、夢のなかだったり

とにかくみんないろんな方向にひねくれて、

ベクトル違いの自意識がふわふわしていて。

バズもクソリプもない、

見つけた人だけが見つけることのできる

インターネットだった。

 

朦朧と、自分の輪郭をなぞるような日記を

みんながこぞって書いていた。

嫌いな人間がだれなのかははっきりわかるのに、

誰をどう愛していいのかわからなかった。

 

それでいて自分と同じような人間に

運命的に、

完全に、

出会いたかった。

 

わたしは、ここに初めて来たとき

出会ったと思いました。

 

出会ったと思ってはじめて、

いままで出会いたかったのだと、

こんなに求めていたのだとわかりました。

 

この国でないどこかの国で、

たまにこの国の歌を口ずさみながら

遠くに行ってしまった恋人との思い出をずっと

月の光に透かしてうっとりしている

あなたの日記を、

物語にしてもあまりに美しいと思いました。

 

時折発狂するように落ち込んでしまうあなたの

嘘か本当かわからない砂漠の日記を読むことが、

わたしのこのつまらない日常を

唯一勇敢な気持ちにさせてくれるのでした。

 

ユキチさんは死についての詩を

たまに載せていたけれど

その詩だけは、あまりに自惚れていて

正直好きではありませんでした。

死ぬことが、

一生できない人なのだろうと思いました。

 

生きている自信がないのであって、

死にたいんじゃなかったはずです。

 

いまでもそう思います。

ユキチさんは、詩人になれないし、

死ぬこともできない。

 

ただ、残酷にも

詩人になることができない、

かわいそうなユキチさんそのものは

ひどく詩的に思えました。

もうだめだ、と長い日記に喚き散らす

ユキチさんの瞳が、好きだった。

見たこともないのに。

 

砂漠に暮らして、夜の海のような

濃紺のサイトで日記を書いている

ユキチさんのことが、好きでした。

 

ただここにいないだけで、

死んだのかどうかはわかりませんが

インターネットでは、更新がなければ

死んだのとおんなじです。

 

ここも、このままもう半年も経てば

not found の砂漠の砂の一粒になるでしょう。

それはユキチさんのお葬式としては

けっこう、らしくて、

いいんじゃないでしょうか。

 

もし本当に死んじゃっているのなら、

ぜんぜんつまらないなあって思うし

 

もし本当は死んじゃったりしていないなら、

ぜんぜんつまらないなあって、思います。

 

どちらにしてもわたしは

ユキチさんのつくった砂漠と夜の海を

胸の中につくって、大切にして長生きします。

それは、ユキチさんがいくらつまらなくなっても

わたしの中で風の吹き続ける景色です。

 

わたしの薄暗い青春のなかに

ユキチさんがいてよかった。

 

遺書を書くようなきもち、と言っておきながら

読み返してみると、

なんだかラブレターみたいですね。

 

好きだったのかなあ。

好きだったんですね、わたし。

いままで、ありがとうございました。

おやすみなさい。

 

【書き手】

くどうれいん

妄想ラブレターとは

中学の頃好きだったあの子、
高校のとき一緒に帰っていた彼、
大学で一瞬いいなと思ったあの人……。

恋の片鱗はどんなときにもあったけれど、
「好き」という言葉を
伝えることができた相手は、
思ったより少ないのではないのでは?

それぞれが胸のなかに秘めた「好き」を
思い出すきっかけにしてほしくて、
『妄想ラブレター』の連載を始めました。

寄せられるラブレターは、すべて妄想。
書き手の実体験をもとにしたものや、
どこかで聞いたような話も
あるかもしれませんが、
どこまでもフィクションです。

でもその中につづられた
「好き」に触れるうち、
あなたの中の甘酸っぱい思い出が目覚める…
なんてこともあるかも?

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