「かわいい」と言ってくれたあなたへ

 

わたしがアイドルになったのは、

あなたのせいだった。

 

はじめて話すよね、こんなこと。

まぁこの手紙、あなたに渡す気はないんだけど。

 

ほら、あなたの携帯の待ち受け、

まゆゆだったじゃん。

あの頃クラス中のみんながAKBを好きだった。

私も当然まゆゆのことくらい知ってたけど。

「えーまゆゆ好きなんや」って私が言うと、

あなたは「てか、アイドル全般好き」と

ぼそりと呟いた。

 

だから私はアイドルになったんだよ。

もう会うことがないだろうあなたの視界に、

アイドルの私なら入れるかもなぁ、と思って。

 

もう完全に思い出話になるけど。

私とあなたがはじめて会ったのって、

ほら、あいつに

「ほらいつも俺が話してるやつ」って

紹介された時。

放課後ばったり会った私を指差して、

「俺と同じクラスで、仲いい友達なんやで」

ってあいつが言って。

 

あなたは「へえ」って

大して興味なさげな顔で私を見てた。

……まあ、本当は興味ないわけが

なかったんでしょーけど。

 

私とあいつ、たしかにクラスで

よくバカ話ばっかりしてたからね。

仲良かった。

あなたは他のクラスだったわけだし。

うん、そりゃまぁ私がどんなやつか

あなたは見てみたいよね。

 

私のほうはね、実は、もう、

あなたのことを好きになってた。

 

いまもずっと覚えてる、

汗ばむくらいの初夏で、

衣替えして夏のセーラー服を

着始めたくらいの季節、

私は放課後の教室で勉強しながら

aikoの曲をイヤホンでずっと流してて、

外からはテニス部の声が聞こえてた。

 

そのときあなたが私をちらっと見て、

言った言葉も覚えてる。

 

「かわいい。AKBにいそう」

 

今思えば、「AKBにいそう」は、

あなたにとっては褒め言葉だったのかな。

どうなんだろう。

 

それから家が近くって分かって、

帰り道でいっしょに

ガリガリくん食べるようになって、

あいつの部活が終わるのを待つあなたと

ぐだぐだ喋って、そんで、

あなたの悩み相談なんか聞くようになって。

楽しかった。

私はじゅうぶんあなたに恋をしていたから。

 

耳に髪のかかる横顔を

見れるだけで嬉しかったし、

パピコを半分わけしたかったし、

まだガラケーだった携帯を

なんども開いてメールを待ったりした。

私じゃないひとに恋するあなたを

見るのはかなしかったけど、

でも、話せることがそれだけで嬉しかった。

毎日会えることそのものが。

 

けどもう今は会えない。

 

あまりにも私があなたのことしか

見てなかったから、気づかなかった。

 

だってあなたすっごい美人だし勉強できるし

趣味もたくさん持ってるし

あいつも「おもろいやろ俺の彼女、

頭いいから話するの楽しいねん」

とか言ってたし。

 

でもあなたは中学校の卒業式で、

私に言いにきたよね。

 

ほんとわたし、あなたのこときらい、

あなたみたいな顔ばっかり

かわいい女の子って

テレビで見るのはいいけど、

横にはほんといてほしくない。

とくに彼氏の横には。

 

私がばかで気がつかなかったから。

あなたが私に嫉妬してた、ってことに。

 

――アイドルのオーディションに合格した時、

スマホに入ってた連絡先はぜんぶ消したし、

あなたのアドレスも

あいつのLINEも知らないんだけど。

そもそももう関西に帰ることとかないし。

 

でも、あなたにダメ元で好きって言おうって

思った卒業式の日に、

まだ咲いていなかった桜の蕾とか、

今でもまだちょっと夢に見るよ。

レッスンがきつすぎた日とか、

握手会に全然人が来なかった日とか、

そういう時に。

 

だけどそれでもあなたがくれた「かわいい」は

ずっと私のお守りだ。

アイドルになって、

掲示板にたくさんの「ブス」が並ぶなかで、

隣にいるたくさんの可愛い女の子と

比べられるなかで、ずっとずっと、

あなたの「かわいい」が私の宝物。

 

ラブレターを書いたのは、

あなたの「かわいいね」を

手放したかったからなんだ。

 

私は、もっとたくさんの人に

「かわいいね」って言われてやるもん。

 

見ててね!

 

【書き手】
三宅香帆

妄想ラブレターとは

中学の頃好きだったあの子、
高校のとき一緒に帰っていた彼、
大学で一瞬いいなと思ったあの人……。

恋の片鱗はどんなときにもあったけれど、
「好き」という言葉を
伝えることができた相手は、
思ったより少ないのではないのでは?

それぞれが胸のなかに秘めた「好き」を
思い出すきっかけにしてほしくて、
『妄想ラブレター』の連載を始めました。

寄せられるラブレターは、すべて妄想。
書き手の実体験をもとにしたものや、
どこかで聞いたような話も
あるかもしれませんが、
どこまでもフィクションです。

でもその中につづられた
「好き」に触れるうち、
あなたの中の甘酸っぱい思い出が目覚める…
なんてこともあるかも?

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