もう結婚した、手に入れられなかったあなたへ

 

卒業してから、結局一度も会いませんでしたね。

お元気ですか?

 

私は元気のないときもありましたが、

今は元気です。

毎日起きて、仕事へ行って、

それなりに恋もして暮らしています。

 

結婚式、行けなくてごめんなさい。

どうしても外せない仕事があって……。

 

ドレス姿、見たかったな。

あなたの選んだドレスなら、

ぴったりあなたに似合うと思います。

 

手紙は苦手なのですが、お祝いも兼ねて、

書いてみることにしました。

 

初めて会ったときから、

すごく素敵な子だなと思っていました。

今まで会った女の子たちとは、

全然別の付き合い方が、

私たちにはできるんじゃないかって、

そんな予感がしました。

その予感は、あながち外れたわけでもないと

私は感じます。

 

服の趣味は全然合わないのに、

あなたが着ているだけで

ものすごく可愛く見えたファーの

ジャケットを買ったことがあります。

私にはびっくりするほど似合わなかった。

今でもたまにクローゼットから出して、

ただ手で撫でています。

大きな動物みたいです。

 

一緒に夜行バスに乗って、温泉にも行きました。

せっかくだからと、

ふざけてあひるのボートに乗ったよね。

足が疲れてしまって、

私もあなたも漕がなくなって、

ぽかーんと池に浮いていました。

思い起こすだけで、

世界に二人ぼっちな気持ちになります。

 

いろんな日があったけれど、

何より私が好きなのは、何にもない日でした。

 

何にもない日、

いつも歩くなんでもない

アスファルトの道を一緒に歩いていたら、

この何でもない日を

いつか思い出すんじゃないかと思って、

突然泣きそうになりました。

 

この無駄遣いしている時間を、これから

「どうしてあんなにもったいないことを」と

悔やむ日が来るんじゃないかと、

あのころの私は思っていました。

そして今の私は、

まさにその通りの感情に襲われています。

 

どうしてあなたの手をつかんで、

思い切り振り向かせて、

もっと意味のある言葉を

ぶつけておかなかったのか?

 

これからのあなたの支えになる

言葉でなくてもいい、

あなたの一生の傷になるような

言葉だってよかった。

 

その一言を思い出して、

幸せになったあなたが

たまに悲しくなってしまうような、

そんな呪いの言葉でもよかった。

あなたの中に痕跡を残しておけばよかった。

 

改まって言うことでも

ないのかもしれないけれど、

私はあなたに出会えて良かったと思います。

 

人をこんなに思う気持ちを、

私はずっとわかりませんでした。

誰がどうなっても、

私の人生に関係ないと思っていました。

けれど今は、あなたが幸福になったり、

あなたが不幸せになったりすることを思うと、

頭がおかしくなりそうなのです。

幸せになったあなたを見ても、

不幸せになったあなたを見ても、

涙が止まらなくなりそうなのです。

 

ごめんなさい。

結婚式へ行けないのは

仕事があるからと書いたけど、あれ嘘。

本当は、沙羅の結婚式へ

行きたくないから行かない。

 

沙羅が白いドレスを着て、

みんなに祝福されてだれかと結ばれるのを、

おめでとうと言いながら

見ていられないと思う。

 

沙羅が幸せになっても、不幸せになっても、

私は沙羅の姿を見ていると

私でいられなくなってしまう気がする。

 

沙羅は私のものじゃないし、

一生私のものにはならない。

でも私は、沙羅のものなんだから。

今もこれからも、ずっと沙羅のものなんだから。

 

気持ちの悪い手紙を送ってごめんなさい。

もう友達でいてくれなくていいです。

赤ちゃんができたって聞きました。

体を大事にしてください。

 

もしお願いをひとつ聞いてもらえるなら、

私のこと、忘れないでください。

私と沙羅が、あのころずっと、ずっと、

四六時中一緒にいたことを、

誰にも話さないまま、忘れないでください。

 

お幸せに。

 

【書き手】

芦屋こみね

妄想ラブレターとは

中学の頃好きだったあの子、
高校のとき一緒に帰っていた彼、
大学で一瞬いいなと思ったあの人……。

恋の片鱗はどんなときにもあったけれど、
「好き」という言葉を
伝えることができた相手は、
思ったより少ないのではないのでは?

それぞれが胸のなかに秘めた「好き」を
思い出すきっかけにしてほしくて、
『妄想ラブレター』の連載を始めました。

寄せられるラブレターは、すべて妄想。
書き手の実体験をもとにしたものや、
どこかで聞いたような話も
あるかもしれませんが、
どこまでもフィクションです。

でもその中につづられた
「好き」に触れるうち、
あなたの中の甘酸っぱい思い出が目覚める…
なんてこともあるかも?

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