電車で会ったおじいさまへ

 

おじいさまへ

 

わたしのこと、おぼえて、るわけない、ですよね。

去年の秋、平日お昼すぎの各駅停車で、

隣に座った高校生です。

ショートカットで、メガネの。

この手紙は、俗に言う、ラブレターです。

 

おじいさま、と呼ばれるのは、お嫌いですか。

お名前がわかれば、

お名前でお呼びしたいのですが。

 

雰囲気的には、三郎さん。

ははは、違うか。すみません。

 

おじいさまの浅いグレーのジャケットと、

コットンのシャツに薄手のニット。

少し裾の短めのパンツ、地味な水玉の靴下。

鞄と靴、

わたしにはブランドがわからないけれど、

きちんとよさそうなものを、

大切につかってらっしゃる。

 

ちょっと、かっこよすぎて。

いいな、と思いました。

すごく、好きです。

 

わたしはあの日、制服でした。

今日もですけど。

 

制服って、かわいく見えますか。

それとも、みんなおなじに見えますか。

 

わたし、スカートは、

正直似合わないと思うんです。

コスプレみたいな感覚なんだよな。

でも、制服着るの、そろそろ終わりだと思えば

少し名残惜しさもありますね。

 

おじいさまみたいにはいかないけれど、

悪くないものを身につけたいと思っています。

 

もし、おじいさまが、

あの日のわたしをおぼえているとすれば。

隣の子、態度でかいな、と

お思いになったのでは。

 

あのとき、わざとどかっと座って、

わたしの右腕が、おじいさまの左腕に

わざとらしくない程度に触れるようにしてた

って言ったら怒りますか。

 

停車するたび、駅が気になるふりをして

右から振り向くようにして

見ていたのはおじいさまの顔だった

って言ったら、気持ちわるいですか。

 

ひげは、しろいのが、いいですね。

すごく、好き。

 

おじいさまが降りた駅で、

わたしも降りて、声をかけて

春休みにデートを、とりつければよかった。

 

一緒に行きたいのは、銀座です。

香り高い紅茶を飲んで、マダムぶりたい。

お孫さんですか、って言われちゃうかな。

そのときは、にっこりしておきます。

 

このラブレター、渡したいけれど、

渡すなら、仲良くなってからがいいかな。

一目惚れだったんですよ、って。

案外かわいいでしょ、って。

 

もし、また、お昼すぎの

各駅停車でお会いできたら。

今度は、話しかけちゃいますから。

 

お元気でいてくださいね。

おじいさま。

 

好き。

 

【書き手】

佐藤文香

 

妄想ラブレターとは

中学の頃好きだったあの子、

高校のとき一緒に帰っていた彼、

大学で一瞬いいなと思ったあの人……。

 

恋の片鱗はどんなときにもあったけれど、

「好き」という言葉を

伝えることができた相手は、

思ったより少ないのではないのでは?

 

それぞれが胸のなかに秘めた「好き」を

思い出すきっかけにしてほしくて、

『妄想ラブレター』の連載を始めました。

 

寄せられるラブレターは、すべて妄想。

書き手の実体験をもとにしたものや、

どこかで聞いたような話も

あるかもしれませんが、

どこまでもフィクションです。

 

でもその中につづられた

「好き」に触れるうち、

あなたの中の甘酸っぱい思い出が目覚める…

なんてこともあるかも?

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