平凡な私から、なりたかった貴女へ

 

ユキちゃんへ。

 

お久しぶりです。元気にしていますか?

 

ユキちゃんにとって私は、

きっと忘れてしまいたい存在だろうから、

この手紙は貴女に届かないことを

祈っています。

 

「ユキちゃん。」

 

貴女の名前を口に出すたびに、

声が震えて思うように言葉に出来ません。

名前を呼ぶだけで涙がでるなんて、おかしいね。

 

ユキちゃんと友達になったのは、

幼稚園に上がる前のことだったと思います。

 

白い肌に映える、ぽってりした可愛い唇で

「なまえはなぁに?」と

私に聞いてくれましたね。

 

まぁるくて綺麗な宝石のような

大きな瞳に見つめられて、

私はとても恥ずかしくってもじもじしながら

 

「ユミ…。」

 

と答えるしかできませんでした。

 

「わぁ!なまえがにてるね!」

 

花が咲いたような笑顔で言われて

私はますます恥ずかしくなりました。

そのあと二人で話していく内に、

名前の他にも住所の番地や電話番号が

似ていることがきっかけで、

私たちは仲良くなりましたね。

 

たったそれだけで仲良くなれるのだから、

貴女は幼いころから人を惹きつける魅力を

持っていたのだと思います。

 

ひとつ年上の可愛いお友達ができた私は

嬉しくて近くにいたお母さんに

「お友達ができたの!」と駆け寄りました。

 

お母さんの横にはユキちゃんのママもいて、

やっぱり二人も私たちと同じように

仲良くなっていました。

それから家族ぐるみで付き合うようになり、

私たちは本当の姉妹のように

なっていましたね。

 

母親たちは「双子みたい」という理由で、

お揃いのお洋服や髪飾りを買ってくれました。

 

「おんなじだね」

 

「うれしいね」

 

この頃はまだ、同じお洋服を

着れるだけで幸せでした。

 

貴女もそうだったらいいな、と思います。

 

私が小学校に入学したころ、ユキちゃんが

 

「この漫画の主人公みたいに、

キスしてみようよ」

 

と言ったのを覚えていますか?

 

「キスっておとながするものじゃないの?」

 

「ユミちゃんはおとなになりたくないの?」

 

「はやくおとなになりたい!」

 

「じゃあ、キスしてみようよ。」

 

漫画の登場人物になりきって、

唇を重ねましたね。

 

あたたかくて、やわらかくって、

なんだか不思議なきもちでした。

 

「これで大人?」

 

「大人だよ!」

 

にっこり微笑む貴女の可愛い顔に、

やっぱり私はみとれていました。

 

ユキちゃん。

 

よく二人で読んだ「しらゆき べにばら」という

絵本を覚えていますか?

 

「しらゆきって、色白だし美人だし、

名前もにてるしユキちゃんみたいだね。」

 

「じゃあユミちゃんはべにばらだね。」

 

挿絵で描かれているべにばらは、

私の理想の女の子ではなかったけれど、

しらゆきの隣にいる女の子がべにばらなら、

私は喜んでべにばらを受け入れました。

 

今、改めて本の挿絵をみてみたら、

べにばらも美人に描かれていました。

 

でも当時の私の美の基準は

ユキちゃんだったから、

ユキちゃん以外は美しくないと

思っていました。

 

とても狭い世界で生きていたのだな、と

今になって思います。

 

ユキちゃんが中学校に上がる前に、

貴女は県外に引っ越すことになりました。

 

「絶対また会おうね。」

「夏休みも冬休みも、絶対絶対会おうね。」

 

そう約束して、船に乗り込むユキちゃんから、

ピンクの紙テープを受け取りました。

 

大きな船が、ユキちゃんを連れていってしまう。

 

いかないで、いかないで。

 

汽笛を鳴らした船が、どんどん進み、

私とユキちゃんを繋いでいたテープがビリリ、

と破れました。

 

ぼんやりと、小さくなった船をみつめながら、

手にしたテープをずっとずっと握っていたら

ぐしゃぐしゃになっていました。

 

約束通り、夏休みになったら

ユキちゃんのいる町へ遊びにいきました。

覚えていますか?

 

JRに乗って県外に一人で行くということは

当時の私にとっては大きな冒険でした。

 

海底列車は、海の中を走り

窓には水族館のようにお魚が泳いでいる姿が

見られると思っていたのですが、

ただただ無機質なコンクリートが

映し出されるだけでがっかりしました。

 

そんなことを思う子供が

私の他にもいたのでしょう。

 

車内には人気キャラクターが

お魚と遊んでいる絵が描かれていました。

 

なんだか滑稽だなぁと思いながら

貴女の暮らす果実の美味しい町を思って、

早くユキちゃんに会いたいなぁと

思っていました。

 

列車がホームについて、改札をでると

「ユミちゃん!」と大きく手を振る

貴女の姿が見えました。

 

またユキちゃんの口から、

私の名前を呼んでもらえた。

それだけで涙がでそうなほど嬉しかった。

 

もう、貴女の声も思い出せないのに。

 

どうして、どうして今でも涙がでるのでしょう。

 

久しぶりに会うユキちゃんは

「フルートを習い始めたの。」と

教えてくれました。

それに倣って私もフルートを

習い始めることにしました。

 

貴女がボーダーの服を着ていたので、

私もお小遣いでボーダーの服を買いました。

 

お洋服も、することも、

何もかもユキちゃんの真似をする私を

貴女はどう思っていたのでしょう。

 

ウザいとおもっていたのかな、

マネしないでって思っていたのかな。

 

けれど私は、ユキちゃんになりたかった。

この頃になると、ユキちゃんと私の顔の造りに

明確な差が出てきましたね。

 

華奢で美人なユキちゃんと、そうでない私。

 

貴女が着こなすギャル服を、

やっぱり私も真似して買ってもらったけど、

残念ながら私には似合いませんでした。

 

だから、ギャルになるのは、諦めました。

 

それは、ユキちゃんになることを諦めたと

いってもいいのかもしれません。

 

私が中学校に上がった頃、

お互い部活や勉強で忙しくなったからか

どんどん疎遠になりましたね。

 

これは、これはもしかしたらなんだけど、

 

「ユミちゃんとキスしているの」

 

って、2人の秘密をユキちゃんは

ママに喋ったのかな。

だから、会えなくなったのかな。

 

ごめんなさい。ごめんなさい。

 

ユキちゃんが私としていたことは、本当は貴女に

トラウマを与えてしまったのかもしれません。

 

もう二度と思い出したくなくて、

記憶に蓋をして、

全部無かったことにしたいと思っていますか?

 

私にとっては光り輝く美しい想い出だけど、

ユキちゃんにとっては

そうじゃなかったですか?

 

私のことはもう、忘れてしまいたいですか?

 

それだったら、

どうかもう私のことは忘れてください。

 

私が、貴女に恐怖と嫌悪感を抱かせる

恐ろしい化け物になっていることは、

私にとっては耐えられません。

 

信じていないけれど、もしもいるなら、神様。

 

ユキちゃんから私の記憶を消してください。

 

でも、私からはユキちゃんの記憶を

消さないでください。

 

ねぇユキちゃん。

 

私は貴女になりたかった。

 

男性だけでなく女性も魅了してしまう、

貴女になりたかった。

 

それを「恋」と呼んでいいのか

わからないけれど、

私は確かに貴女に憧れと嫉妬と

独占欲を抱いていました。

 

可憐な貴女が好きでした。

 

美人な貴女が好きでした。

 

叶うならば、私は貴女のような可愛くて

美しい女の子になりたかった。

 

【書き手】

ユミ

 

妄想ラブレターとは

中学の頃好きだったあの子、

高校のとき一緒に帰っていた彼、

大学で一瞬いいなと思ったあの人……。

 

恋の片鱗はどんなときにもあったけれど、

「好き」という言葉を

伝えることができた相手は、

思ったより少ないのではないのでは?

 

それぞれが胸のなかに秘めた「好き」を

思い出すきっかけにしてほしくて、

『妄想ラブレター』の連載を始めました。

 

寄せられるラブレターは、すべて妄想。

書き手の実体験をもとにしたものや、

どこかで聞いたような話も

あるかもしれませんが、

どこまでもフィクションです。

 

でもその中につづられた

「好き」に触れるうち、

あなたの中の甘酸っぱい思い出が目覚める…

なんてこともあるかも?

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