私のあしながおじさまへ

 

あなたが病気になってしまってから、

一年に一度、あなたの誕生日にだけ

お手紙を書くようになって、

何通目になるでしょう。

 

あなたが街中で私に突然声を掛けてきたとき、

正義感の強い少女だった私は

いつものように警戒していたはずなのに、

あの時はなぜかあなたと

連絡先を交換してしまった。

隣にお姉ちゃんがいたからかもしれません。

 

数年の間はあなたと姉と三人で

お茶会をしているだけだったけれど、

姉が遠くの大学に進学してしまってからは、

暇を持て余した私をいろいろなお芝居に

連れ出してくれるようになりましたね。

 

私はあなたの手帳に書きつけてある、

東京中の劇場の座席表を

眺めるのが好きでした。

行ったことのない劇場でも、

どの席が一番の特等席なのか、

そらで言えるようになりました。

 

出会ってしばらくは、

私たち二人の演劇道場はいつだって

池袋パルコの不二家だったけれど、

あの店はいつなくなってしまったのでしょう。

 

私たちはいつの間にかペコちゃんの

いないところに行くようになっていたから、

思い出の店が閉店してしまったことに

気がつきませんでした。

 

私が二十歳になったときには、

ダイヤモンドのネックレスを

贈ってくれましたね。

 

とっておきのときにだけ

身につけているのだけれど、

今日お友達に、

「そのダイヤのネックレス、

誰かからのプレゼント?」って

聞かれちゃったので、

ニヤッと笑ってから、

秘密だって答えておきました。

だってそっちのほうが

ドラマティックでしょう?

 

それを教えてくれたのは

あなたと一緒に観たお芝居です。

 

就職活動のときには、

とっても素敵なパンツスーツを

見立ててくれましたね。

 

私はあの頃、毎日のようにあのスーツを着て

東京の街を歩き回っていました。

 

リクルートスーツじゃなかったから、

生意気だと言われたこともあるけど、

あのスーツを着ているだけで、

いろんな人が褒めてくれました。

 

今は悲しいことに、

物理的に着られないのだけど……、

その原因はあなたにもあるんだから!

と責任転嫁しておきます。

でも、ダイエットの成功を

祈っていてくださいね。

 

大学の卒業式の日には、

卒業を祝いにわざわざ駆けつけてくれて

本当にありがとう。

 

一緒に浅草で人力車に乗って、

満開の桜を眺めましたね。

私の袴姿を見て、

「『はいからさんが通る』みたいだねえ」と

言いながらあげまんじゅうを頬張っていた顔、

写真に撮っておけばよかった。

 

卒業祝いの十三やのつげ櫛は、

すっかり飴色になりました。

だってあれからもう十年も

経ってしまったのだもの。

 

「ダディ・ロング・レッグス」の

日本での初演をシアタークリエで観たとき、

また再演を一緒に観に行こうと約束したのに。

 

再演も、三演も、ひとりぼっちで観ました。

あなた以外のひとと

観ることなんてできなかった。

 

だって、きっと劇場中で一番泣いてしまうって、

私は知っていたんです。

 

今年もあなたからの返事が

来ないのはわかっています。

 

でも、私はあなたのジルーシャだから、

私だけのあしながおじさまに

お手紙を書かなくちゃ。

 

大好きなおじさま、お誕生日おめでとう。

 

【書き手】

羽衣モコ

 

妄想ラブレターとは

中学の頃好きだったあの子、

高校のとき一緒に帰っていた彼、

大学で一瞬いいなと思ったあの人……。

 

恋の片鱗はどんなときにもあったけれど、

「好き」という言葉を

伝えることができた相手は、

思ったより少ないのではないのでは?

 

それぞれが胸のなかに秘めた「好き」を

思い出すきっかけにしてほしくて、

『妄想ラブレター』の連載を始めました。

 

寄せられるラブレターは、すべて妄想。

書き手の実体験をもとにしたものや、

どこかで聞いたような話も

あるかもしれませんが、

どこまでもフィクションです。

 

でもその中につづられた

「好き」に触れるうち、

あなたの中の甘酸っぱい思い出が目覚める…

なんてこともあるかも?

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